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寄り道欧州サッカー紀行 ~スペインから見たアジア、リーガに挑戦する一人の若者を追って~

近年、ヨーロッパサッカーの中心に君臨するリーガ・エスパニョーラ。 レアル・マドリッド、バルセロナという巨大なクラブがあまりにも有名だが、 アジア人の活躍という面では長らく 「鬼門」 とされてきた。 そのリーガの中堅クラブに、20歳にも満たない一人の若者が爪痕を残そうとしている。 ヨーロッパの現地から、KING GEAR編集部がその情報をお届けします。

图标向上Takafumi Kunitomi | 2017/12/22
まだ、日本から出たことも無かった子供の頃、世界地図を見て日本以外にどんな国があるか、また、その見たことも無い国はどんな風景なのか、写真と共に想いを馳せた記憶がある。

恐らく、皆さんも同じように世界地図を見たことがあるだろう。
 

左側にユーラシア大陸とアフリカ大陸、中心に太平洋、右側に南北アメリカ大陸が描かれていた地図を見たことがある方も多いと思う。

しかし、それは日本人が見る世界地図であり、日本(アジア地域)を中心に描くからだ。

ここ、スペイン(ヨーロッパと言っても同義だが)では、中心にヨーロッパを描き、左側には南北アメリカ大陸、右側にユーラシア大陸、そして
更に右側に、小さな島国が描かれている。

それが日本だ。  

かつて、スペイン王室の支援の下、クリストファー・コロンブスが目指した極東の「アジア」と「黄金の国」は今の時代にあっても、ヨーロッパの地図上の表現だけを取ってみると、やはり「極東にある詳細のわからない国」と思われても仕方がない位置にあることがよくわかる。

 ヨーロッパに住む人にとっては、アジア人の明確な違いなど分からない人も多い。 アジア人を見ると、おもむろに

「Japones? Coreano?Chino?(日本人?韓国人?それとも中国人かい?)」
と聞かれることも多い。     

去る2017年12月9日、ここ情熱の国では、リーガ・エスパニョーラ初の日本人対決が少しだけ話題になっていたが、話題の大半がフットボールで繰り広げられているにも関わらず、
サッカーが好きな人であっても、日本人がリーガに所属していることすら知らない人も多い。  

「なんでヘタフェまで試合を見に行ったんだ?」

「なんでエイバルなんて(マドリッドから)遠くて小さい街にわざわざ行ったんだ?」  

「ヘタフェには日本のナショナルプレイヤー・Gaku Shibasakiがいるし、エイバルにも同じTakashi Inuiがいるから、俺は応援しに行ったんだ」(本記事執筆時点)

「おぉ、そうか。そういやリーガにハポンがいるってのは聞いたことがあるな」 と言った具合である。    

以前とは大きく変わったとはいえ、 アジアから来た人間は、例えその国の代表であったとしても、世界中の猛者が集まってくるこのスペインという国では知名度が、まだまだ低い。      

そんな中、日本と同じアジアから、一人の若者がマドリッドに降り立った。  

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彼の名は「金昇浩(キム・スンホ)」19歳、ポジションはFW、出身は韓国。

実はマドリッドにはリーガ・エスパニョーラに所属するクラブが複数ある。 レアル・マドリッド、アトレティコ・マドリッドを知ってる人は多いと思うが、 柴崎選手が所属するヘタフェもマドリッドにある。  

そして、この若者が所属するクラブ「C.Dレガネス(Club Deportivo Leganés)」も、マドリッドに本拠地を置くクラブだ。 レガネス自体は、2016-2017シーズンでクラブ初のプリメーラ・ディビジョンに昇格した。

本拠地は、ムニシパル・デ・ブタルケ(Estadio Municipal de Butarque)という収容人数1万人にも満たない小さなスタジアムであるが、観客席とピッチが近く、地元の人で満席になるとても雰囲気の良いスタジアムである。

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本拠地の、ムニシパル・デ・ブタルケ(Estadio Municipal de Butarque)

この地において、まだ暑さの厳しい頃、スンホはこのレガネスと契約を結んだ。

まだこの国での実績が無いため、いきなりトップチームという待遇ではないが、彼は確かにスペインの地にその足跡の第一歩を残した。
 

まだスペイン語が苦手だからか、それともうちに秘めた闘志を燃やす性格なのか、彼はあまり自己主張の激しい人間ではない印象を私は受けた。  

しかし、彼にインタビューをする中で、私は彼の闘志をその言葉の片鱗から十分感じ取ることができた。  

ーーレガネスとプロ契約締結おめでとうございます。韓国からこの地へ来て、日々の暮らしの変化だけでなくサッカーに対する意識も大きく変わるところもあると思いますが、どのような印象をお持ちですか?

「ありがとうございます。まず、レガネスと契約ができたことを、とても嬉しく思っています。 この地へ送り込んでくれた家族、特に両親のためにも成功を勝ち取りたいと考えています。

韓国では仲間がいたので、ある程度仲良くやっていました。 しかし、スペインでは、世界中からこの地でプロになることを夢見る人間がやってきます。

同じチームメイトでさえも、勝負に勝っていかなければ、明日の自分の居場所がなくなってしまうことは多く、今日一緒にプレーしたチームメイトが、契約更新ができず明日いなくなるということは日常茶飯事です。もちろん、自分にだって起こる可能性は十分あります。

だから、まず、気持ちの面では絶対に負けてはいけないと感じて、日々トレーニングをしています。

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       (写真/契約を行った際の一枚、中央がスンホ) 

ーーレガネスでトレーニングをする中で、韓国でいた時と比べて、フットボールにおいて何が一番違うと感じていますか?


練習一つとっても、目的のはっきりした練習を行います。練習に対するプランニングがとても充実していると感じています。でも、一番は、フットボールに対する考え方、文化の違いでしょうか。この国でフットボールをする人は、みんな自由にプレーしています。 

ーー自由というのはどうゆう時に感じるのでしょうか?

韓国では寄宿生活でした。管理されている中でプレーをし、その中で自分のパフォーマンスを上げていく必要がありました。

一方で、このスペインでは練習こそシステマティックに行うことはありますが、 どんなプレーをしてもいいんです。

自分の責任で、自分で考えてプレーをすることが求められますし、自分もそのようにしていかなければいけないと感じています。 しかし、失敗した時、パフォーマンスが上がらない時の責任も全て自分で負わなければいけません。 

ーー成功も失敗も自分の気持ち次第。とても精神面においてはシビアな環境に置かれてるのですね。その中でスンホ選手はどのような気持ちで日々を過ごされてるのでしょうか?

スペインにおいて、フットボールにおけるアジアの地位は決して高くありません。それは日々のトレーニングの中でも感じています。 周囲と同じレベルのプレーをしても評価はしてもらえません。

だから、アジア人である以上、常に周りよりも一歩先をいかなければいけません。 一歩先を行って、ようやく同じステージに立てるのだと言い聞かせ、自分が何をするべきかを考えています。

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ーー
確かに、フットボールにおいて、アジアという位置づけは決して高いものではないと私も感じています。そのような厳しい環境に身を置いた上で、スンホ選手は将来何を目指していますか?


まずは一日も早く1軍に昇格できるようにしたいと考えています。 そして、将来は韓国代表として、そして「アジアの一員として」、 自分のプレーでここに住む人達の印象を変えていきたいと考えています。 

身寄りもおらず、言葉も文化も違う中で、19歳の若者が生き残っていくことは、言葉で表現する以上に難しいことだ。
だが、スンホの口からは、 フットボールができる喜びと、将来のビジョンの話しか出てこなかった。  

成功者の中にはあまり多くを語らない人もいる。 自分が何をすべきか、何をなすべきか、自分の中で分かっているからなのだろう。    
 
試合中の状況判断と、左足から生み出されるチャンスメークを評価された青年。キム・スンホ   彼を、満員になったムニシパル・デ・ブタルケの緑の絨毯の上で見れる日が待ち遠しい。