ヴェルディブランドを確立するー。アカツキ経営陣が語る、緑の栄光を取り戻す旅。
数々の日本代表選手を輩出し、日本サッカー界の礎を築いた、言わずと知れた名門クラブ・東京ヴェルディ。 近年はJ2での苦しい戦いが続いているが、昨季リーグ戦6位で進出した昇格プレーオフでは決勝まで駒を進め、悲願のJ1復帰まであと一歩のところまで迫ったことは記憶に新しい。 そんな東京ヴェルディは今年、創立50周年を迎えた。記念すべき節目の年の変化として新たな株主にモバイルゲーム事業などを展開する株式会社アカツキが加わり、ユニフォームスポンサーとして同社の名前が胸部分に大きく入った。 この20年あまりの間でインターネット産業は大きく成長し、それに伴ってソフトバンクや楽天、DeNAといったIT系ベンチャー企業がプロ野球球団を買収するケースはあった。 しかし、なぜアカツキはJ2のサッカークラブをサポートすることにしたのだろうか。そしてなぜヴェルディだったのだろうか。株式会社アカツキ代表取締役・塩田元規氏と執行役員・梅本大介氏にその理由を聞いた。
森大树
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2019/03/08
ヴェルディには輝かしい歴史という財産がある
ー今年からJ3に八戸が参入し、Jリーグのクラブ数は55になりました。まず、数あるクラブの中からヴェルディを選んだ理由から教えてください。
塩田:それには2つ理由があります。1つは単純に僕らが子供の時から見ていて、好きだったということです。
特に僕らが子供の頃のヴェルディは強くて、スター選手がいっぱいいた時期でした。その後苦難の時期が続いてきましたが、輝かしい栄光と歴史を持っているヴェルディは本当に素晴らしいと思っています。
アカツキは事業として過去の輝いていたもの、例えば「青春」をモバイルゲームとしてリバイバルし、当時の体験とともに届けるようなことをしています。
同様に僕らはサッカーをファンビジネスと捉え、素晴らしい過去の物語や歴史を1つの“ヴェルディブランド”として確立していけると思っています。これは僕らが今一からスポーツチームを作ったところで到底築き上げられないものです。
歴史あるヴェルディの新たな栄光を、もう一度、一緒に作り上げてゆく旅をできるなんて、ものすごくわくわくしませんか?そこには考えられない感動が待っている。そう思い、今回ぜひ一緒にやりたいと考えました。
小学生のころにサッカー経験があるアカツキ・塩田代表
梅本:ヴェルディが掲げるビジョンがアカツキと近かったことも大きかったです。ヴェルディは優秀な人材を輩出する場所だと言われていますが、実際今トップ選手の中でヴェルディ出身の人は多くなりましたよね。
もちろんプロにはなれなかったとしても、会社の社長になったり、いろいろな世界で一流になれれば素晴らしいということをヴェルディの代表の羽生さんもおっしゃっていて、僕らも全くそうだと思っています。サッカーに触れている時間よりもその他の人生の方が圧倒的に長いわけですから、ピッチの外でも活躍できる人材を輩出することはとても大切です。
対話を進める中で、ヴェルディの皆さんにも考え方が重なる部分が多いと判断していただけたからこそ、今回の形に繋がったのだと思います。
塩田:もう1つはヴェルディが“東京”という場所にあることが重要だと思っています。アカツキは、世界を見据えて仕事をするという会社です。
同時に日本という国が文化や体験を世界に発信していくことも大切だと思っています。もし日本の首都、東京にあるサッカークラブがFIFAクラブワールドカップで優勝するというストーリーができたら、きっと海外のサッカーファンが東京に興味を示しますよね。行きたいと思う人も増えるのではないでしょうか。
梅本:スポンサーを集めるにしても、企業が多く集まっている場所の方がそれだけ可能性が大きいわけで、今後数百億円規模のビッグクラブに成長していくためにも、東京という場所は商業的なアドバンテージになり得ます。人材を集めるという点でも有利でしょう。
ー他の業界からクラブ運営に参画するということは新しい風を呼び込める反面、不安に思う人も多いのでは?
塩田:そうですね。新しい人たちが外から入ってくるというのは変革の力にはなるんですけど、過去の部分とちゃんと繋げつつやっていかないと、良かったものを壊してしまう可能性もあります。僕たちは今までスポーツ界の方々が築いてきたことに敬意を表しつつ、自分たちの得意分野を生かしていく形で良い関係を築いていきたいと思っています。
梅本:もちろん業界外から入っていくことを歓迎してくださる方もいて、それは僕らにとってすごく喜ばしいことです。
例えば我々の手がけるモバイルゲーム事業の力だけで、数万人を1ヶ所に集めるなんてやったことがありませんが、サッカーではそれが可能です。しかもシーズンに入れば毎週末続くわけです。
そういったリアルに人がたくさん集まる空間をつくることや、人材育成の観点でも学ぶところはたくさんあると思うので、偉そうに入っていってやるつもりは全くありません。 むしろ、これからいろいろ学ばせていただくく気持ちです。
サッカー歴の長いアカツキ・梅本執行役員
ーお二人ともサッカー経験があるそうですが、特に梅本さんは特に競技歴が長く、ヴェルディは特別な存在だと聞きました。
梅本:僕は幼稚園でキャプテン翼を見て、そこからずっと大学までサッカーをしていました。高校卒業後にドイツに1年間、サッカー留学をしたこともあります。でもプロにはなれませんでした。
実は一度ヴェルディのセレクションを受けに行ったこともあるんですよ。グラウンドに行くとちょうど女子の練習が終わる時で、高倉(麻子=現女子日本代表監督)さんがいたのを覚えてます。
それから時が経ち、昨年初めてヴェルディのスポンサーになる際にあの日夢見たクラブハウスの中に入ることができて、すごくテンションが上がりました。カズさんがポルシェで乗り付けてたあの場所に入っちゃった!って(笑)
僕が子供の頃、ヴェルディはまだ読売クラブで当時は加藤久さん、ラモス(瑠偉)さん、菊原(志郎)さんなどがいました。
その時代は西が丘などによく試合を観に行っていましたね。Jリーグが開幕して、他にも強くて人気のあるクラブが出てきましたが、やっぱり胸にコカ・コーラと入った緑のヴェルディのユニフォームがカッコいいと思っていました。イベントに参加してラモスさんと一緒に撮ってもらった写真を今でも大切にしています。
ーヴェルディを応援する身としては昨年の昇格プレーオフはかなり盛り上がったのでは?
塩田:楽しかったですね!僕はその時ちょうど海外出張出かけていたんですが、会社のメンバーからリアルタイムで試合の進行がチャットで飛んできてました(笑)
ヴェルディを通して一喜一憂できる幸せを改めて感じた時間だったと思います。クラブの存在に感謝です。
もちろんJ1に行けなかったのは残念でしたが、逆に言えば昇格という楽しみを今年に取っておけたと考えれば、またワクワクできます。選手育成や選手起用に我々が口出しするようなことはないですが、それ以外のビジネス面やマーケティング面でお手伝いできることを最大限やって、ヴェルディのブランドを定着させ、強いクラブにしていき、その結果 J1昇格、さらにその先へと進んでいきたいです。
仕事は“人の心を動かすこと”。サッカーもその1つ。
ーアカツキのゲームにはスポーツを題材としたタイトルが複数あります。一方でレジャー予約サービスや体験施設の運営など、リアルに寄った事業も展開しています。デジタル以外の領域も手がける理由を教えてください。
塩田:僕と創業者の香田はもともとスポーツやアウトドアが好きなのですが、それらは人を感動させたり、心を動かしたりするものです。
アカツキはそういうものを生み出すことを仕事にしている会社なんです。そして我々は人の心を動かすにはデジタルとリアル、両極の体験が必要だという考え方を常に持っています。
例えばゲームを開発し、デジタルの世界を作ってそこに没頭させるだけでは人間は幸福になれないんじゃないかと思っていて。 だからその真逆の側面としてリアルな体験ができる場も作っていくべきだと考えています。
ー両極にありながら共通しているのはいずれも熱中できる、という点にありそうです。
塩田:そうですね。僕たちが作っているものってどれでも「青春感」があるんです。経営陣含め、少年の心を忘れないというのはメンバーみんなが大切にしている部分だと思います。ずっと青春の中で何かに熱中し続けていたいという思いです。
梅本:そもそもアカツキの創業は、ゲームを作るためのものではありませんでした。人をワクワクさせ、その結果生まれるコミュニケーションを大切にしたいというのを考えています。それをゲームをしていない人にも届けたい場合には、て他の事業をする必要があります。
デジタルの空間を通してワクワクできるものといえばゲームですが、それをリアルで伝えるとしたら、どういう方法があるか。僕にとってはまさにサッカーがそういう存在だと気づいたんです。
塩田:梅本も僕もたまたまサッカー経験者だったので、今回サッカーから入っていますが、たぶん一番自分がワクワクできるのはバスケや野球という人もいると思います。いずれにしても子供の頃から僕らはそれに触れながら育ってきて、サッカーにワクワクを感じたということです。