Gettyimages 1249042043

栗山英樹が“二刀流・大谷翔平”と歩んだ5年間 「この才能は神様しか決められない」課されたミッション、果たした夢への約束

2023年に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表の侍ジャパンを3大会ぶりの世界一に導いたのが栗山英樹さん。2012年から日本ハムファイターズを10年間率いて2度のリーグ優勝、16年には日本一に導くなど、名将としてのキャリアを築いてきた。栗山さんが監督就任時にプロ入りし、二刀流選手としてのキャリアを歩み始めたの大谷翔平。配信サービス「Lemino」のドキュメンタリー番組『Number TV』で語られたのが、夢を叶えるために大谷と交わした約束と未来のスターを育てるために奮闘した日々だった。※トップ画像出展/MLB Photos via Getty Images

图标 30716468 1048529728619366 8600243217885036544 n伊藤雅孝 | 2024/10/19

関係者から飛び交った賛否の声

番組では2012年に就任し10年間指揮をとった日本ハムの監督時代の奮闘ぶりについて明かされたなか、プロ野球界で賛否を巻き起こす出来事として紹介されたのが、2012年にドラフト1位で入団した大谷翔平の存在である。

投手としては160キロを超える速球を操り、打者としても高校通算56本塁打を記録した逸材を、過去に前例のない本格的な二刀流選手として育てていくかはさまざまな関係者から意見が飛び交っていた。

そんななか、栗山監督と日本ハム球団は花巻東高校から直接メジャー移籍も視野に入れていた大谷を強行指名。その後の交渉で自チームに招き入れた大谷をどのようにプロ野球で活躍させて、将来的に日本を代表する選手として夢だった米移籍につなげられるかは、栗山さんと日本ハム球団に課されていた重大なミッションとなった。

栗山さんは「なんでみんな(二刀流が)ダメだと言っているのか。その理由をつぶせるかつぶせないかだと自分では思っていて、彼の本当のポテンシャルの大きさみたいなものをみんな分かっているのかなと思っていました」と、当時の日本野球界に巻き起こっていた議論に対してのスタンスを明かす。

「怪我をするのか、体力的に持たないとか(意見が)いろいろありましたけど、それをクリアできればいいんですよね。批判をひとつの条件として捉えて、それをつぶせるかつぶせないかとして考えていた」と“二刀流・大谷翔平”を成立させるために描いていた道筋に言及した。

そのなかで、「この才能は大谷翔平か神様かしか決められない。結果を出してもらって彼の夢を叶えてもらいたいと思っていた」と大谷の将来的なメジャー移籍を見据えながらも条件として提示していたのが日本ハムを優勝に導くこと。

「本人には優勝させてから行け、チームに貢献させてから行けというのはずっと言っていた」と自身の夢であるメジャー移籍を叶えるためのステップとして、日本ハムへの置き土産を残すことを約束として求めていた。

Thumb 1  5kv

画像提供/ NTTドコモ/Sports Graphic Number

評価されるべき二刀流開花への功績

1年目から二刀流としてのキャリアを歩み始めた大谷は、栗山さんの要望に入団4年目の2016年に応えた。打者として104試合に出場し打率.322、22本塁打、67打点を記録。投手として21試合に登板し、10勝4敗、防御率1.86と投打で結果を残し、日本ハムを10年ぶりの日本一に導いた。

MVPを獲得し、史上初となる指名打者と投手としてベストナインに輝いたこの1年は、入団当初懐疑的な声が向けられていた大谷の二刀流選手としての風向きを一気に変えたシーズンとなり、栗山さんや日本ハム球団が信じ続けて取り組んだ成果が形となって現れた。

その後大谷は、2018年にポスティングシステムでエンゼルスに入団し、21年に打者として46本塁打、投手として9勝を挙げてメジャーの舞台でその才能を本格開花させた。

大谷のプロとしてのキャリアの序章となった日本ハムでの5シーズンで築いた「二刀流・大谷翔平」としての土台が積み重なり、自身の夢だったアメリカの地でもその存在が認められた。大谷がメジャーにおいても唯一無二の存在となった今、栗山さんのもとで過ごした日々は改めて評価されるべきものだろう。

Thumb ohtani

来源/盖蒂图片社

2023年WBCで果たした再会

栗山さんは日本ハムの指揮官を退任した2021年に日本代表の監督に就任した。23年のWBCで世界一を成し遂げることになるこのタイミングで、日本ハムで師弟関係を築いた大谷と再会を果たした。

開幕投手を務め、主軸打者としても3番に君臨してチームをけん引。決勝のアメリカ戦ではクローザーとして最後を締めくくった大谷の伝説的なシーンは、2012年のドラフト指名からおよそ10年の日々を重ねてきた栗山さんと大谷の関係があったからこそ生まれた瞬間であったと感じられる。

栗山さんはWBCの優勝に対して「栄光に関しては本当によかったと思います」と感慨深さを見せながらも、「野球にとってすごく重要なWBCだったと思うので、本当に良かったと思います。でも僕にとってはそれを引きずることもなく、ここで経験したことでさらに自分が成長するしかない」と足元を見据えていた。

「まさか僕が最初にテスト生として入団してプロに入った時を見てた人があそこで(大谷)翔平とWBCを戦っている映像を思い浮かべた人がいるかといったら誰もいない」と語った栗山さん。テスト生としてのプロ生活を経て、掴んだ日本ハム、侍ジャパンでの監督キャリアで感じた想いは、華々しさとは無縁のところから野球生活をスタートさせた栗山さんだからこそ至った境地なのかもしれない。


『NumberTV』 挫折地点~あのとき前を向いた理由~

タイトル:#5 栗山英樹
配信日:2024年9月26日(木)0:00~ 全24回配信(月2回配信予定)
内容: トップアスリートの「挫折」と「復活」をテーマにしたドキュメンタリー番組。過去の写真が飾られた特別な空間(Number Room)で、アスリート本人がこれまでの人生を振り返り、挫折の瞬間や前を向けた理由について語る。

※記事内の情報は配信時点の情報です