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G.G.佐藤が独立リーグで引退試合をした意義と、あの日実現した「フル応援」

「引退試合をする」という報道に、「え、引退してなかったの!?」という反応が山ほどあった。そんな引退試合がかつてあっただろうか。 2022年4月29日。場所は浦安。G.G.佐藤は正式にルートインBCリーグ埼玉武蔵ヒートベアーズと一日契約を結び、神奈川フューチャードリームスとの公式戦に、スタメン1番DHで出場。4打数3安打、4打席全て出塁、打率.750という輝かしい公式記録を残す。角晃多、服部泰卓、清田育宏、内竜也、米野智人…NPB選手時代を共にした仲間に見守られながら、その日正式に現役を引退した。

图标 img 20200702 114958 井上 尚子 | 2022/05/31

千葉で初開催のルートインBCリーグ公式戦

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雨にも関わらず熱心なファンが集まってきていた。G.G.佐藤が副社長を務める株式会社トラバースがスポンサーとなったため、初めて「千葉」で開催されたBCリーグ公式戦。普段のBCリーグとは少し客層が違う。

ロッテや西武のユニフォームを着ているファンがいる。1番G.G.佐藤が打席に入れば、応援団がロッテ時代の応援歌をトランペットで高らかに奏で、大声を出して応援歌を歌い飛び跳ねる。コロナ禍となってからは初めての、声を出した「フル応援」だ。

熱い声援に、G.G.佐藤も熱いバッティングで応える。雨天により5回コールドとなったものの、内容の濃い試合だった。 記録と記憶に残る一日は、彼が大事にする多くの人との繋がりと、演出した埼玉球団、そして見守るファンの熱意が生み出した。

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 この「引退試合」のアイディアは、G.G.の元同僚である埼玉武蔵の角晃多監督(兼GM兼球団社長)が、株式会社トラバースにスポンサー営業をかけたことに始まる。トラバースの名を冠した試合をすることになり、「どうせなら俺が出る」ということで、43歳の一日契約となった。

試合前のトークショーではG.G.佐藤と角監督、埼玉武蔵の公式解説者である服部泰卓・清田育宏両氏が顔を並べた。トークショーでは激励にやって来ていた元ロッテの内竜也さんも飛び入り。スタンドには元西武で交流のある米野智人さんも駆け付けていた。 

ロッテ退団後の清田育宏に練習場所を提供するなど、復帰への支援を続けるG.G.佐藤は、「清田を復活させようと頑張ってたのに、俺が現役復帰して清田が解説って逆じゃない?」と笑うが、「打ちます。打ち方は忘れません。歯磨きの仕方を忘れますか?」と力強く約束していた。隣の清田も「一緒に練習してたんですが、普通に打ってたんで、打つと思います」と太鼓判を押していた。

【関連動画】BCリーグ公式戦 VS 神奈川フューチャードリームス 


勇姿を見せつけたG.G.佐藤

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代打なのか、守備はあるのか、何回まで出るのか…と、その日までファンも色々想像していたが、一番DHでの堂々たる出場。初球からフルスイングを見せて観客をどよめかせる。第一打席はポテンヒットで出塁。第二打席にはサードゴロエラーでの出塁。第三打席にはレフトオーバーの見事なヒット。二塁まで行けそうな当たりだったが、ここはさすがに走れずシングルヒットとなった。

なお、この日はテーピングで足をガチガチに固めてきたことを明かしていた。試合の経過は埼玉武蔵が優勢に進めたが、5回表で神奈川が逆転。その裏に点を入れられなければ、雨天コールドが濃厚になるほどの雨脚の強さだった。マウンドに送られたのは、元日ハム・巨人でプレーした乾真大投手。

一死一塁の場面。G.G.佐藤自身は試合後に「神奈川の川村監督が演出してくれましたね。以前にも対戦したことがあったので懐かしい感じもあり嬉しかった」と振り返った元NPB対決だったが、神奈川の川村丈夫監督は「ガチで勝ちに行った」継投だった。マウンドの乾にも忖度は全くない。

ベテラン左腕が「ガチでフライアウトを取りに行った」初球のストレート。一振りで仕留めた打球は、センターの頭を超えた。一塁ランナーが生還して7-7の同点。この回で試合は成立し、雨天コールドゲームとなった。再逆転は成らなかったが、起死回生ドローの立役者、G.G.佐藤は名実ともにこのゲームの主役だった。 

試合の意義と清田育宏

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試合後には引退セレモニーが行われた。スペシャルメッセージとして、ニッチロー氏が画面でメッセージを告げたあと、花束を持って登場するサプライズもあった。浦安からも近い行徳で野球を始めたG.G.佐藤。そこから30年以上の経歴を振り返る。アメリカで、西武で、ロッテで、イタリアで。様々な場所で野球を続けてきた。「北京にも行ったけど、それは思い出したくありません(笑)」と自虐ネタも忘れない。

失敗もし、挫折もし、大きな苦しみを背負いながら、野球を続けてきた。それでも笑顔の絶えないこの試合、彼の「野球が好き」「人に楽しんでもらいたい」という気持ちが強く伝わってきた。若手独立リーガーには「フライ以外は教えられるから」とウェルカムな姿勢を見せ、「僕も26歳でプロに入りましたから」諦めるなとエールを送る。

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 独立リーグでもスポンサーの名を冠した冠試合は数多い。球団と企業が提携して、野球を通じて人々の注目を集め、地域を盛り上げる試みはこれからも続くだろう。それとともに、「一日契約」として元NPB選手が出場するという動きも出てくるかもしれない。

大きなイベントで衆目を集めることは、独立リーグの選手たちにとっても刺激となるはずだ。G.G.佐藤はスポンサーとしてだけではなく、プレーで「一流選手とはこういうものだ」という姿を選手たちと観衆の胸に刻みつけてくれた。

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埼玉武蔵にはG.G.佐藤が繋げた縁もある。清田育宏が埼玉武蔵ヒートベアーズの「公式解説者」として一歩踏み出したのも、その成果の一つだ。

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開幕から約2ヶ月、選手の特徴や性格まで踏まえるようになった清田の解説は、丁寧な語り口で分かりやすいとファンの評価が高い。現在清田は埼玉武蔵チームと一緒に練習することもあり、その際には言葉を惜しまず選手にアドバイスを送る。

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この日の試合前にも、G.G.佐藤とともに練習に加わり、スポーツウェア姿で汗を流す清田の姿があった。チームでは特に高卒ルーキー町田隼乙捕手のバッティングをよく見ているそうだ。今では町田選手のフォームが清田によく似てきているといい、打撃成績も上昇中。

町田が登場曲を「人生は素晴らしい物語」に変えたというくらい、チームに馴染む様子が見える。選手と言葉を交わし、手振りを交えて説明する清田の表情は終始明るく生き生きしている。

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試合前の円陣では、輪の中のG.G.佐藤をベンチから見守る清田の姿があった。自分のことのように嬉しそうな表情が印象的だった。 

清田が現役選手として復活出来るかどうか、今の時点では分かっていない。ただ、彼がグラウンドに立つ日が来るとしたら、今度はG.G.佐藤がその姿を見守るのだろう。きっと自分のことのように喜んで。 

「フル応援」の実現

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もう一つ、この試合の成果として、トランペットや太鼓を用いた上、コロナ禍になって初めて大声での声援を解禁した「フル応援」が挙げられる。

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©miki

応援行為のうち何をどの程度許可するかは、球場のある自治体に任されており、BCリーグでも、現在トランペット演奏の出来るところはほとんどない。旗を振る、立ち上がっての応援すら不許可のところもある。

だが埼玉武蔵は角監督自身が「フル応援」の復活を強く望んでいた。そのため自治体と応援を前提にした交渉を続け、出来る限り鳴り物を使えるようにと努力を続けている。

そしてこの日、「大声ありのイベント開催は収容率50%以下に制限」とする政府の開催ガイドラインに基づき、浦安市民球場の収容率50%、1500人以下であれば声援が可能との許可を得た。

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©sitihongi

さらに、埼玉武蔵の応援団連合の努力により、G.G.佐藤のロッテ時代の応援歌を使用する許可も得られた。こうしてG.G.佐藤の応援歌と声援が浦安に響いたのである。

G.G.佐藤自身も「ありがたいですね」を目を細めた光景。一塁ベースコーチとしてグラウンドで応援を受け止めた角監督も「痺れました」と振り返る。
球場での応援を撮影した動画はSNSで拡散され、「応援歌懐かしい」「独立リーグだと声が出せるのか」「羨ましい」という声も聞かれた。

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コロナ禍では「新しい応援スタイル」が推奨された。声を出さず、鳴り物もなく、手拍子やスピーカー応援などが取り入れられた。それは今だけなのか、終わりはいつなのか。まだ様子見の部分もあるだろう。NPBでは収容率を上げることが優先で声援はまだ解禁されないが、高校野球や社会人では鳴り物解禁の動きもある。

独立リーグも「収容人員の半数以下」という範囲内で少しずつ動きが見えてきている。埼玉武蔵は交渉努力を続けてあの「フル応援」を勝ち取った。この日の相手の神奈川フューチャードリームスは、コロナ禍で始まった3年目の球団だ。応援団も試合でのトランペットは初めてだったが、見事な演奏で観客を魅了した。
今後も感染対策を続け、自治体の定めるルールを守りながら、埼玉武蔵はトランペットや声援での応援を追求していく姿勢を明らかにしている。

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選手やファンが球団を愛し、人々が野球場を楽しむ一つの要素として応援はある。浦安での応援は、多くの人を楽しませた。「また行きたい」と思える球場作りは大切だ。 G.G.佐藤が独立リーグの舞台で最後の花道を飾ったことは、独立リーグから見ても大きな意義のあるイベントだった。

チーム・企業・自治体が力を合わせられれば、独立リーグだからこそ実現出来ることは色々ある。それはこの一試合だけに留まらず、独立リーグの今後に多くの可能性を示してくれている。

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G.G.佐藤が独立リーグの舞台で最後の花道を飾ったことは、独立リーグから見ても大きな意義のあるイベントだった。チーム・企業・自治体が力を合わせられれば、独立リーグだからこそ実現出来ることは色々ある。それはこの一試合だけに留まらず、独立リーグの今後に多くの可能性を示してくれている。

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