
「勝利至上主義」ではない次世代の”育成”を実現するには?ーより良い環境を作るために大人がするべきこと
2023年、スペインのFCバルセロナでラミン・ヤマル選手がプロデビューを果たしたが、16歳という若さだったことから大きな話題となる。また、同じ年にアメリカでは13歳のダヴィアン・キンブロー選手がサクラメント・リパブリックに入団し、アメリカ史上最年少の記録を塗り替えた。このように今やサッカー界全体が低年齢化していると言っても過言ではない。※トップ画像/PhotoAC

小学生年代の「行き過ぎた勝利至上主義」
2022年3月に柔道の小学生全国大会が廃止された。その理由を「行き過ぎた勝利至上主義が散見される」としているが、「審判・対戦相手に罵声を浴びせる親」や「成長期の子どもに無理な減量を強いる指導者」といったさまざまな問題が背景にある。
しかし、この問題は柔道に限ったことではなく、サッカーでも同じようなことが起こっており、サッカー解説者細江克弥氏も疑問に感じていたようだ。
「勝利至上主義自体はまったくよろしくないと思うのは間違いないです。やっぱり育成サッカーなりスポーツを通じての人間形成がそもそも目的だと思うので」
目的が“育成”ではなく“勝利”になってしまっていることが大きく起因している。
スポーツライターの小澤一郎氏は、スペインの「まずはプレーしてサッカーを楽しんでもらう」といった育成における概念を例に挙げながら、「(勝利至上主義で)本当にそれで選手が育つのか? そもそも選手がサッカーを理解しサッカー好きになるのか?っていうところはちょっと考えた方がいいかもしれないですね」と語った。
日本の小学生年代の育成現場で勝利至上主義が蔓延しているのか。実情の具体例として、スポーツコメンテーターの桑原学氏が、自身が目の当たりにしている光景をこう明かす。
「大人、コーチ、監督の方が勝ちにこだわりすぎて、試合中に相手チームに対しても酷い言葉が届くような言い方をしている。コーチがそれをやっていると、そのチームの子どもたちもみんなやりだすんですよ。それが当たり前だと思っていて。だからそういう風にコーチが言ってる横で子どもたち、サブの子どもたちも『もっと行け! もっと潰せ!』とか平気で言うんですよ。僕はもう本当に大問題だと思いますね」
もはや「育成」以前に「スポーツマンシップ」があるのかさえ疑問になる実態だ。
スペインの制度化された“育成”
日本の育成現場の実情に触れたが、海外ではどうなのだろうか。小澤はスペインを例に挙げ、「監督は保護者に選手起用の話しをしない」などといったルールが整備されていると話す。基本的にはクラブのスポーツディレクターが間に入ることでトラブルを防いでいるそうだ。
また、スペインではサッカーにまつわる制度化が進んでいる。例えばプロのみならず育成年代の監督であってもライセンスが必要なことや、選手全員が選手証を持ち、プロと同じようにシーズン前にはメディカルチェックが要求されることが挙げられる。サッカーに関係する受診は無料になるというのもスペインらしい制度の1つと言えよう。
マルチスポーツと親の負荷
スポーツ大国アメリカでは、季節ごとに異なる競技をプレーする「マルチスポーツ」が主流になっている。そこには「バランスよく人生を送った方がいい選手が出てくる」といったメリットもあり、スペイン・バスク州でも導入された。特定のスポーツを選んだらそれに集中する日本とは大きく異なるが、そんな日本にもマルチスポーツの波が来ているようだ。
しかし、そこで壁になるのが親の負荷。親の送迎やボランティアを大前提にしたケースが多いのが現状で、「週末仕事されている家庭だとちょっと難しいとか、それで子どもの機会を作れないとかっていうのもあります」と桑原は指摘する。また、金銭面で不十分な場合にも言及し、「他の経験を積ませてあげられないっていうのはすごくあると思うんですよね」と懸念した。
日本の“育成”を改善するには?
指導者や親のさまざまな思いや考えが交錯する育成現場。子どもたちにとってより良い環境にするために、大人たちはどうするべきなのだろうか。
細江は「サッカーというスポーツの中でどうあるべきかっていうことの啓蒙活動」が必要だと言う。大人がそれぞれの立場でいくら一生懸命考えても、バラバラの思いをまとめるのは難しい。しかし、サッカー協会が先頭を切って活動を起こすことで、意識を変えられるのではと期待を込めて語る。桑原も同調しながら「トップダウンでいいんで、ルールをちゃんと明確にしてほしいです」と付け加えた。子どもたちが心からサッカーを楽しめるよう、日本の“育成”が改善されていくことを期待したい。
「Football Freaks#107『育成』について本気出して考えてみた」(2023年10月18日配信)より
※記事内の情報は放送当時の内容を元に編集して配信しています